1人用(女性1) / 1040字 / サスペンスっぽく見せかけて実は一発ギャグ
本文
あの人が悪いんです。
そう、ことの始まりは去年の結婚記念日。
珍しく早く帰ってきたあの人は、また珍しく私にプレゼントを買ってくれていました。
真っ白な可愛いらしい仔猫。
うれしくてうれしくて、まるで蜜月の頃のように、わたしはあの人にぴっとり甘えて、2人と1匹の甘い未来を夢見ました。
異変に気がついたのは、ほんの半月後。
仔猫は私にちっとも懐きませんでした。
猫というのはそういう生き物なのだと、私は自分を納得させようとしました。
だけど、あの猫という生き物はどういうわけか、あの人にだけはよく懐いたのです。
私はあの人に嫉妬しました。
あの白い仔猫は、私にくれたプレゼントなのに――。
1月経ち、2月経ち、半年が過ぎても、依然猫は私に懐きませんでした。
かわりに、あの人への甘え方は日に日に酷くなっていきました。
あの人が帰ってくる音を聞きつけると、飛び跳ねて玄関で出迎え、あの人もあの人で、今や家に居る間中、膝に猫を抱えては顔を緩ませているのです。
私に気遣う様子もなく。
私を気にかける素振りもなく。
そう、私はあの人にしてやられたのです。
あの人は、私へのプレゼントにかこつけて、まんまと愛人を家に招き入れたのです。
――さて。今夜の食卓はいつもより豪勢にしてみました。
あの人も、私がお願いしたら、今日は少し早く帰ってくると約束してくれました。
なにせ、今日は特別な日。
私たち夫婦の誓いを確かめ合い、また明日から穏やかな生活を営むための大切な記念日。
メインの料理は大鍋でじっくり炊きあげたスープにしました。
下ごしらえに手間取って少しだけスープを濁らせてしまったけれど、あの人ならきっと美味しいと言ってくれるでしょう。昔からそういう人でした。
あの人がどんな顔でスープを食べてくれるのかが楽しみ。
スープを食べたあとで、あの人に味の秘訣を教えてあげるのが楽しみ。
あの人と2人きりの日々がこれからも続くことが何よりも楽しみ。
あっ、あの人が帰ってきました。
玄関で出迎える私。着替えもそこそこに、あの人の背中を押して温かな食事の待つダイニングへ招待します。
一通り料理の紹介をする私に、あの人が一言。
「白いね、このスープ」
その瞬間、私はこれまでの幸せな日々が破綻したことを悟りました。
私はそっと、包丁に手を伸ばします。
……全ては、あの人が白い猫を連れてきたときから。
それまでは何もかもうまくいっていたのに。
全部あの人が悪いんです。
私は悪くありません。
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