1人用(不問1) / 544字 / 自分だけひとりぼっちのお話
本文
気がつくと、そこは薄暗い森のなかだった。
くらいせかい。ひとりぼっち。だけどどこからか響く笑い声。
たくさんの笑い声。ざわざわと。がやがやと。笑い声だけがこの森の唯一だった。
四方八方を反響し、円環し、いくつにも増殖して声、声、声。私に突き刺さる。
怖くはなかった。むしろ楽しそうで、輝いていて、まるで鏡のよう。
私は耳をふさぐ。
だけどその声は、
耳をふさぐ私の手の隙間に滑り込んで、
無理やりに私に聞かせて、
耳をふさぐ意味なんてなくして、
だけど私は聞くのがつらいから、
わかっているのに、耳をふさいで、目を閉じて、泣いて、叫んで、それでも、私の声なんてちっぽけだから、笑い声は聞こえて、まわりがこんなに賑やかでも私はひとりぼっちなんだって、気づきたくないのに、気づかされて、のどが痛くなって、私の声がつぶれても、笑い声はかまわないで、私の中に入ってきて、もうぐちゃぐちゃで、
助けて!!
……なにか聞こえた気がした。目の前に真っ白な手があった。
思わず私はその手に縋ろうとして、そして、見た。
その手の先には何もなかった。腕の半ばからぼんやりと森に溶け込んでいた。
冷たい汗が伝う。一瞬手を引いた。すると真っ白な手は、すっ、と溶けた。
再び襲いかかる声。
楽しげに歌う。
影に包まれたまま、私はいつまでも泣きじゃくる。
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