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変化球で来ると見せかけて最後まで昔話どおりなももたろう

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5人用(男性4;女性1) / 1921字 / 取ってつけた語尾が本体のやつ

登場人物

A:いぬ。ワンと鳴く。
B:ももたろう。モモと鳴かない。
C:さる。ウキと鳴く。
D:きじ。チュンと鳴く。
E:鬼。オニと鳴け。

本文

A01「ももたろうさん、ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな。ワンワン」

B01「うん? それは構わないけど・・・。いぬさん。君はこのきびだんごがどういうものかわかっているかい?」

A02「もちろんですとも。ワンワン。そのきびだんごは此度の遠征のためにお爺さんが用意してくれた大事なお弁当。それを授かるからには、私も鬼退治の尖兵として、あなたの行く道の露払いをしたい所存です」

B02「いやいや。その気持ちだけで充分だよ。お婆さんの思いの込もったきびだんご、誰にでも食べさせるわけにはいかなかっただけだ。ボクがこれより進むは修羅の道。きびだんごひとつのために君までその業を背負う必要はない。君の気持ちにボクは大いに勇気づけられた。ありがとう。きびだんごをあげるよ」

A03「いいえ、いいえ。あなたとともに修羅となることこそが私の本望なのですワン。御身は昨年の春、大きな桃に揺られて流れ着いたばかり。まばたきほどの間にすくすくと成長なされたがゆえ、ふた冬ごとにこの村を襲う鬼どもの憎らしさを、あなたはまだ知りませぬ。それにもかかわらず、あなたはこうして村のために立ち上がってくださった。村の困窮が他人事ではないと言ってくださった。ありがとうございます。その志こそが村の一員として何よりも嬉しいのです。ワンワン」

B03「ボクはお爺さんとお婆さんに恩返しがしたいだけだよ。一生をかけて返すべき恩だから、一番困っていることで助けになりたかっただけ。いぬさんが来てくれるなら心強い。どうか君の勇気をボクに貸してほしい。ともに鬼を討ち果たそう」

C01「だったらオイラも連れて行ってくれ。ウキッ」

B04「君は・・・、さるさん?」

C02「ももたろうさん、聞いてくれ。あんたはさっき、この村のために修羅になると言ってくれた。でもそいつはオイラのものウキ。オイラの父さまは鬼に刃向かって殺された。爺さまも、そのまた爺さまも、みんな鬼に殺された。鬼退治に修羅が必要だというならオイラがなる。オイラが鬼どもを殺して、殺して、殺しつくして、父さまたちの仇を取るんだウキ」

A04「さるさん、しかしあんたは刀を握れなじゃないか。ももたろうさんよりずっと弱く、おそらく鬼どもよりもさらに弱い。だから今日まで鬼退治が叶わなかったんじゃないか。ワンワン。さるさんの気持ちはわかるが、ももたろうさん抜きで鬼退治は――」

C03「わかってるウキッ! いくら鬼が憎くても、そのために命をムダにしたら死んだ父さまたちに叱られちまう。だから、オイラの命の使いどころは、きっと今だウキ。鬼どもを皆殺しにして死んだなら、父さまたちもきっと命のムダ遣いだとは言わないウキ。ももたろうさん、すまねえがあんたの力は借りることになる。でも、あんたの手が血に染まるのは、オイラが力不足で情けなかったせいだって思ってくれ。オイラ、あんたにはいい人のままでいてほしいんだ」

B05「さるさん。悪いけど、ボクは君を死なせたくない」

C04「ウキ・・・」

B06「だけどひとつワガママを言わせてほしい。さるさん、君の激情はボクにとって必要なものだ。どうかこのきびだんごをボクと一緒に食べてほしい。君を死なせる気はないけれど、さるさん、この鬼退治の最後まで、どうかボクの隣で戦ってくれ」

C05「・・・ウキッ!」

D01「トリトリ。あの、ももたろうさん。ここは私も――」

B07「トリ!?」

D02「あ。ええと・・・。キジキジ」

B08「キジ!?」

C06「きじさん。もっと普通に話すウキ」

A05「ワンワン。ももたろうさんは分かってくれる人だワン」

D03「そう、ですか――。では。ももたろうさん。どうか私にもお供させてくださいチュン」

B09「チュン・・・?」

A06「ももたろうさん。見て分かるとおり、きじさんの本当のご両親はすずめなんです。ワンワン」

D04「はい。私の生みの親はとても貧しく、私が卵から孵るのを見る前に骨と皮だけになったと聞いています。チュンチュン。私だけが、そう、とても幸運なことに、きじの夫婦に身請けしてもらえたのです」

B10「なるほど。だから今のあなたはきじさんなんですね」

D05「そうです。・・・ああ、本当にありがとうございます。そしてももたろうさん、どうかお願いチュン。私も鬼退治に連れて行ってください。これからあなたが行う偉業に、私の微力を添えさせてください。育ててくれた父と母のため、返しても返しきれない大きな恩に、ほんの少しでも報いたいのですチュン」

B11「わかった。きじさん、どうやら君とボクとは似たもの同士のようだ。これからボクは鬼ヶ島を血の海に沈めに行く。そんな業の深いボクだけれど・・・、どうやらボクが人の心を忘れたらみんなを悲しませてしまうらしい。ボクがボクであるために、ボクが温かな人たちの手で育てられたことを忘れないために、どうか、ご両親に愛されて育ったあなたにも着いて来てほしい。きじさん。あなたにきびだんごを差しあげます」

・・・

A07「こうして、ももたろうさんといぬ、さる、きじは鬼ヶ島へ向かいましたワン。道すがら何度か鬼どもに遭遇することもあったワンが、力を合わせてことごとく斬り伏せたワン。やがて嵐渦巻く黒い海に4人がやっと乗れるだけの小舟を浮かべ、身を寄せあいながら、私たちはやっとの思いで鬼ヶ島にたどり着いたワン。ワンワン」

E01「来たか、ももたろう」

B12「お前が鬼の大将か!」

E02「そうだが、まあ聞け。今、この鬼ヶ島には我が手勢の半分しかおらん。残りは遠い海の向こうへやっている」

C07「それがどうした! どちらにせよオイラたちはここにいる鬼を皆殺しにするだけだ!」

E03「そうだろうとも。だが、さるよ。そうした結果、次に何が起こるのかは貴様が一番よく知っていることだろう」

D06「・・・禍根が残る、と?」

E04「ほう?」

D07「さるさんは一族を殺された恨みでここまで来ました。そしてそれは私も少なからず同じチュン。私の生みの親が貧しかったのは、村を襲った鬼たちが食べものも財産も根こそぎ奪っていったせい。私たちの村では誰もが鬼を深く深く憎んでいるチュン。――それと同じことが、鬼の側でも起きる、と?」

E05「そのとおりだ。貴様らは我ら鬼を根絶やしにすることができない。ならば、この戦のあとに残るものは、我らの人間どもに対する憎しみだ。生き残った鬼たちは必ず貴様らに復讐するだろう。ここに貴様らがいるのと同じように」

A08「そもそも鬼は何故私たちの村を襲ったんだワン? それがなければ、私たちだってももたろうさんを担ぎ上げることは無かったはずなのに」

E06「簡単なこと。ここ鬼ヶ島では作物が育たん。しかし鬼が貴様らの土地に移り住みでもしたら、さすがに幕府の軍が黙っていないだろう。だから奪った。我らが生きるために必要なものを」

C08「ウキッ。食いもんの他に、わずかばかりの銭や藁編物、機織物――。オイラたちの財産まで根こそぎ持っていくくせに」

E07「だから2年に1度の略奪だけで済んでいるのだ。1年目は奪った飯を食い、2年目は奪った宝を金に換えて暮らしているからこそ」

A09「鬼の半分が今ここにいないというのは、そういうことか・・・」

B13「話はわかった。だが鬼よ、仕方のない事情があったからと、ボクらがお前たちを許すとでも?」

E08「いいや。ただ脅しているだけだ。ももたろう。貴様のように、まだ我らへの個人的な憎悪を持っていない者ならば、もしかすれば、この戦が不毛なものだと知ったとき迷いが生じるだろうからな。そしてももたろう。人間でまともに戦える者は唯一貴様だけだ。貴様さえ抑えられれば鬼が勝つ。さて、此度の戦の次、憎しみに駆られた鬼たちに貴様らが襲われる番となったとき、貴様は今のように戦えるだろうか?」

B14「戦えるとも。あいにく、人間とはお互いに心を通わせられるものだ。お爺さんとお婆さんの憎しみはボクの憎しみ。村のみんなの憎しみはボクの憎しみ。ボクは今、みんなの思いを背負ってここにいる。いぬさん、さるさん、きじさんと心をひとつにしているからこそ、ボクはボクの後ろにある全てを忘れずに戦える。いつだって、何度だって。――御託は終わりか、鬼め。言葉を尽くしたなら次は刃で相まみえよう!」

E09「あいわかった。我はここで死ぬだろう。だが、我にできるだけのことはし尽くした。このうえは同胞に明日を託そうぞ。鬼と人間の終わりなき憎しみの連鎖が始まる。我々にはそういう生きかたしかできぬ。憎むがいい、人間どもよ。我々もそれと同じだけ、貴様らを憎むだろう。――さあ、いざ! ももたろうよ!」

B15「ああっと、いや。最後にひとつだけ」

E10「何だ!」

B16「お前も鬼なら鬼らしい語尾をつけろ。みんなやってるだろ」

E11「だったら貴様もオニ! モモ、モモって言え!」

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