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4人用(男性4) / 2429字 / 人間関係に疲れたやつ

登場人物

A:男性。チンピラ風の気が短い少年。
B:男性。孤独になりたがっている男。40代にも60代以上にも見える。
C:男性。悠児。Bとは通じ合うものがあるようなないような。
D:男性。お人好しで腕っぷしが立つ、Cの友人。

本文

A01「おい、ジジイ!」

B01「……」

A02「聞こえてんだろ、ジジイ!」

B02「……」

A03「どけって言ってんだよ! 邪魔だ、ジジイ!」

B03「……」

(※B、無言で道を譲る)

A04「聞こえてんじゃねえか、糞ジジイ!」

(※SE:Aが道を通るついでにBを突き飛ばす音)

B04「ギャッ」

A05「けっ」

C01「大丈夫ですか?」

B05「……」

(※B、Cの手を借りず無言で立ち上がる)

C02「ったく、乱暴な人だ。信じられない。あんなのが同じ社会の中で生きていると思うとゾッとする。……本当に大丈夫ですか、お爺さん」

B06「……」

(※B、無言で立ち去る)

C03「待ってください!……もう、何なんですか。お爺さん、言っておきますけどね、さっきのはもちろん突き飛ばした向こうが明らかに悪いですが、お爺さんのその態度も良くないと僕は思うんです。人間、誰しも心のなかに思うことはあります。ですがそれは言葉として表に出さないと誰にも通じないんです。一人ひとりが他人と繋がろうと努力すること、そうして初めて和の精神が」

B07「……君」

C04「何ですか、まだ話の途中」

B08「ひょっとして、私に話しかけているのかな?」

C05「……はい?」

(※SE:ガコン、と自動販売機から缶ジュースが落ちてくる音)

B09「缶コーヒーでよかったかな」

C06「はい」

B10「120円だ」

C07「……どうぞ」

(※SE:プシュッ、と缶ジュースのフタを開ける音)

B11「……私はね、この20年間ひたすら孤独になろうと努力を続けてきた」

C08「はあ。そんなの努力するようなことですかね」

B12「努力せねば形にはならんものだ、何事もね。ともかく、私は孤独になろうとしたんだ。原因は、とっくに忘れたね。何か辛いことがあったのかもしれない。会社を首になったか、妻に先立たれたか」

C09「結婚なさっていたんですか」

B13「さあて、忘れたよ。孤独になろうとする者にとって、思い出は邪魔なお荷物でしかないからね。そうさ、思い出があるから他人が寄ってくるんだ。私と過去、何らかの繋がりがあったというやつらが後から後からやってくる。思い出とは人生の履歴書、社会が私を縛るための鎖。君も覚えておくといい。思い出がある限り、君の隣には常に誰かがいる」

C10「はあ。ありがとうございます」

B14「さて、私は孤独になるために、まず思い出を捨て去ることにした。子どもの頃の写真からボールペン、靴下に至るまでありとあらゆる物を捨てた。安い古着を一揃いと分厚い毛布を一枚買って、私を知る者が誰もいない街でダンボールを広げて生活を始めた」

C11「家族はいなかったんですか」

B15「いたさ。新しい生活を初めて1週間もしないうちに、母が私の居場所を突き止めた。母だけじゃない。弟も叔父も従兄弟も友達も、ひっきりなしに私のもとにやってきた」

C12「幸せなことじゃないですか」

B16「まったくその通りだ。だが冗談じゃない。私は孤独になりたかったのだ。私は、私を訪れてくれた全員を口汚く罵った。『こんな嫌なやつ、顔も見たくない』そう思わせるように。それでも何人かはしつこく姿を見せた。思い出には今この瞬間の事実をも覆すほどの重みがあるらしい」

C13「思い出は……重いで」

B17「うん?」

C14「はい?」

B18「……私はこれを根気よく続けた。一度チンピラを雇って一芝居打たせたこともあったが、今度はそのチンピラにしつこく付きまとわれた。ひとつの土地に長く留まっていると、知らぬ間にその土地のホームレスたちから仲間意識を持たれることもあるので全国各地を転々と移りまわった」

C15「そうして今に至るわけですか。誰にも近づくことなく、誰にも近寄られることもない。掃いて捨てるほどいる人ごみの海の中で、たったひとり、孤独に」

B19「いいや。それでも私を追いかけてくる者はゼロにはならなかった。まったく酔狂なことだよ。それに、いくらこちらから関係性を拒み続けていても、向こうからやってくる人間だっているんだ。君や、先ほどの少年のようにね」

C16「僕はただ……」

(※Aが偶然通りかかり、いらだちを隠そうともせず派手に足音を立てて近づいてくる)

A06「あっ、テメー、ジジイ!」

B20「君といい彼といい、人間とはつくづく不思議なものだね。どれだけ私が望んだところで、絶対に私を孤独にしてくれない。……私はもう疲れたよ」

A07「テメー、さっきはよくも俺を馬鹿にしてくれやがったな。テメーのせいで30分も遅刻しちまった。いったいどう責任取ってくれるんだ、ああ? あー、顔見ただけでまた腹立ってきた。一発殴らせろ、コラァ!」

C17「どうするんですか?」

B21「どうもしないさ。彼の好きにしてもらおう。好きなだけやって気が済んだら、それだけ私に興味を持たなくなるだろうしね。君は……まあ、諦めなさい」

C18「そうですか。でも僕の場合は」

D01「悠児ぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

(※Dがどこからともなく登場。その勢いのままAを蹴り倒す)

A08「ぐはっ!」

D02「大丈夫か、悠児。怪我はないか?」

C19「誰が助けてくれなんて頼んだ。君はつくづくお節介なやつだな」

D03「そんなこと言うなよ、友達だろ。ま、いつものことだし……はいはい、俺、先に帰るけど帰り道には気を付けろよ。じゃあな」

(※D、とぼとぼと肩を落として帰る)

B22「変わった友達だね」

C20「いいやつですよ。お節介で、お人好しで、お節介で、お節介で、お節介で。きっと正義のヒーローか何かなんですよ。僕のピンチに颯爽登場、悪者どもをやっつけろ! なんちゃって。ま、せいぜい付きあってやりますよ。それにしてもこいつ、少しは喧嘩できそうなナリの癖に、全然だな。……あ、面白いお話ありがとうございました。僕はこれから約束があるのでこれで」

B23「あ、ああ」

(※C、何事もなかったかのような足取りで去る。ひとり残されるB)

B24「……ああ」

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