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砂礫の瞳

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4人用(男性1;女性1;不問2) / 1965字 / 理解されなかったお話

登場人物

A:ラジオのアナウンサー。
B:女性。フリーター。佐藤瑞希(サトウ・ミズキ)。幼い頃Cに両親を殺された。
C:男性。死刑囚。石岡徹男(イシオカ・テツオ)。Bの母親と何かあったらしい。
D:警察官。40~50代といったところか。善人。

本文

(※ラジオ。誰がどこで聞いているものかは不明)

A01「臨時ニュースです。たった今、護送中の死刑囚が警察の制止を振り切り逃走しました。逃走した死刑囚は……」

(※街角)

B01「石岡さん」

C01「ひっ! ……ああ、瑞希ちゃ……ああいや、佐藤さん。ちょうどよかった。仕事の帰りかい?」

B02「ええ。少し寄り道をしていて。立ち話もなんですから、こちらへ」

(※BがCを案内したのは無人の廃屋。人が寄りつくような場所ではなさそうだ)

C02「佐藤さん。その……」

B03「『瑞希ちゃん』で構いませんよ。『佐藤さん』では呼びづらいでしょう?」

C03「そうか……では、瑞希さん。まずは、本当に申し訳ない。謝って済む話ではないが、とにかく、すまない」

B04「ええ」

C04「それと、ありがとう」

B05「やめてください。あれは、そういうのじゃありません」

C05「しかし……」

B06「私の家、見ましたか?」

C06「……ああ、前々から耳にしてはいたが、全く酷いものだ」

B07「いいんです。私はそれだけのことをしたんです。……あなたにも。ですから、私に感謝しないでください。そのくらいなら、私の父と母にもう一度謝ってください」

C07「……。佐藤さん、楓(かえで)さん、本当にすまなかった。どうか私の一生をかけて罪を償わせてください」

B08「父と母が許すことはないでしょうが、喜ぶこともないでしょうが、それでも石岡さんの誠意だけは、きっと伝わると思います。……さて、石岡さん。あなたが刑務所から脱走してまでここに来た目的は……」

(※静寂の中、Cが懐に手を入れる音がやけに大きく聞こえる)

B09「……私を殺しに来たのですね?」

C08「……ああ。君が法廷で言ったあの言葉、あれのせいで僕の人生は台無しだ。……いや、もともと後は死刑を待つだけのクソみたいな人生だが、君のあの一言で、僕の尊厳は粉々に打ち砕かれたよ」

B10「『あの人を殺さないでください』……父と母を殺された“かわいそうな”娘が言うのは許されない言葉でした」

C09「残念ながら判決の大勢に影響はなかったけれどね。おかげで新聞には好きなように書かれたよ。楓さん……君のお母さんだけではなく、当時まだ幼かった君とも関係を持っていたんじゃないか。むしろ君を手に入れるために楓さんたちを殺したんじゃないか、とね。今では僕は畜生にも劣る卑劣なロリコン野郎さ。家族には縁を切られ、囚人仲間には馬鹿にされ、日々届く悪意ある手紙の数々に、看守からも皮肉を言われる始末。どうしてこうなった。僕はただ、僕を裏切ったあの人に復讐してやりたかっただけなのに……!」

B11「母とあなたの関係は、お世辞にも褒められたものではありませんでした。そして母の仕事自体、胸を張って言えるような仕事でもありませんでした。何を言われてもしかたありません。それとは関係なく、私のあの言葉があなたの立場を悪くしたことは間違いありませんが」

C10「そう、君さえ、君さえいなければ、少しはマシな最期を迎えられたのに! 誰にも知られずひっそりと死刑台に立てたのに!」

B12「ええ。私も謂れのない中傷を受けずに済んだかもしれません。友達や親族、姉と弟にも縁を切られずに済んだかもしれません。あのときあの言葉さえ言わなければ。……ただ、私は怖かった。父と母の命を奪ったひどい人、あなたの命を今度は私が奪って復讐したならば、私は、あなたと同じになってしまうんじゃないかと……! 殺してください! 私を、頭のおかしな親不孝者を、殺してください! お父さんのところに行かせて!!」

C11「死ねぇぇぇぇぇ!!」

(※Cが凶器を抜くと同時に、突然四方から警官隊が押し寄せる)

D01「動くな! 抵抗はやめろ! 確保!!」

C12「うわあぁぁぁああああ!!」

(※Cが逮捕され、連行された少し後)

B13「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

D02「……ええと、佐藤瑞希さん」

B14「……はい」

D03「石岡の確保への協力、ありがとうございます。おかげで無事、逮捕できました」

B15「……いえ。あの人が逃げ出した時点で、私に会いに来ることはわかっていましたから」

D04「……そうですね。我々も、石岡があなたに危害を加えることを一番に警戒していました」

B16「そうですか」

D05「あの。……あなたにとっては、わずかな気休めにもならないかもしれませんが……人間、生きていればいつか必ず良いことがあります。……人生の先輩として、日ごろから感じている言葉です。どうか強く生きてください」

B17「……。大丈夫ですよ。私を本気で殺したがってる人なんて滅多にいませんから」

D06「それでは私はこれで」

(※D、心なしか早足ぎみに立ち去る。1人立ち尽くすB)

B18「……お父さん、お母さん」

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