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昂揚

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1人用(不問1) / 671字 / 舞台に立って役を演じるときのお話

本文

 板張りの舞台の上に、今、ふたりの男(女)が立っています。

 ひとりは、これまで波乱に満ちた人生を歩んできました。彼(彼女)はこれから運命の悪戯に
振り回され、嘆き、悩み、人として生きた証を立てるでしょう。
 彼(彼女)の人生は、文字として台本に記されています。

 ひとりは、どこにでもいる凡庸な男(女)でした。しかし彼(彼女)はこれから瞳に光を灯
し、その身を焦がして余りある情熱に突き動かされ、人として生きた証を明(あき-)らめるで
しょう。
 彼(彼女)の人生は、思い出としてその身に刻まれています。

 このふたり、出会いはほんの数ヶ月前のことでした。
 ひとつの目的のために出会うべくして出会い、目的のために語り合い、憎み合い、曝け合いま
した。
 己の履歴と相手の履歴を重ね合い、互いに重なること、重ならないことを知り尽くしました。
 あるいはそれは、見る人によっては片思いにすぎないかもしれません。しかし、いずれにせよ
身体を持たない男(女)が血肉を得、もうひとりが語るべき言葉を得たことには変わりありませ
ん。

 今ここに立つのは、ふたつの過去を持ち、ひとつの身体を持ち、そして――。

 明転。

 サスが、ボーダーが、エスエスが、ピンが、シーリングが、舞台をまぶしく照らします。
 ひとり立つ男(女)を中心に、幾筋もの長い影が照らし出されます。

 ふたつの過去、ひとつの身体、そして幾筋もの未来。

 ここから先には脚本も演出もありません。
 ここに立つものは、きらびやかな光に照らし出された、たったひとつのエチュード。あるいは
人の生きた証。

 「さあ、物語を始めましょう」

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