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生命蒔く歌

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4人用(男性1;女性1;不問2) / 2329字 / 終末世界で想い出を愛するお話

登場人物

A:女性型アンドロイド。セリフは『生命の在処について』の引用。
B:男性ロボットエンジニア。セリフは『生命の在処について』の引用。
C:ナレーション。
D:農作業用ロボット。外見は耕運機そのもの。

↓この台本には前編があります↓

本文

C01『昔々、世界が終わりを迎えた。人間も、他の動物も植物もみんな死に絶えた。理由はこの際どうでもいい。死にゆく者のうち幾人(いくにん)かは未来に何かを残そうと頑張ったが、それもこの際どうでもいい。どうせ終わった世界に未来など無いのだから。……さて、ここに一台の農作業用ロボットがいる。エンジンの駆動音と調子外れの歌声をけたたましく荒野に響かせる、永久無限の存在。どこかの年老いたエンジニアが一縷(いちる)の希望を託して、この終わった世界に送り出した。ロボットに与えられた使命は、この世界に種を蒔(ま)くこと』

(※無人の荒野を一台の農作業用ロボットが駆ける。けたたましい音を立てて耕運機を走らせ、底抜けに明るい声でいい加減な歌をまき散らしている)

D01「種を蒔きましょ―。花を咲かせましょ―。大地を緑で塗りかえましょ―。種を蒔きましょ―。森をつくりましょ―。世界を元に戻しましょ―。あっはっは。人間様ー、人間様にいただいた映像には草なんてちぃっとも生えてなかったっすよー。あっちもこっちもビル、ビル、ビル、コンクリート! あっはっは。仕事だー、仕事ー。種を蒔きましょー。花を咲かせましょー。おっと、定期調査。周囲の土壌の汚染状況をチェック。……汚染指数87! あっはっは。草を生やすなんてムリムリ。今日も世界は終わったまんま。あっはっは。種を撒きましょー。種を捨てましょー。芽吹かぬ生命をばらまきましょー」

(※SE:なにか硬いものが耕運機にぶつかる音)

D02「んお?……あれま、アンドロイドっすか。やっべ、轢いちまった、おいら犯罪者になっちまったー。あっはっは。……ひょっとして、壊れてるんすか?」

(※耕運機を一旦停止させる)

D03「どーれ、メモリに接続、最新のログを読み込み。なうろーでぃんぐ。……おや、つい最近まで生きていたんすね。50年前に足が壊れて動けなくなって、それからずーっとひとりぼっち、と。あっはっは。生殺しだー。長生きはするもんじゃないっすねー。お、メモリに音声ファイルが残ってるっすね。さすがに劣化が激しいっすけど。どれどれ」

(※以下、前作『生命の在処について』を参照。途切れ途切れに音声が再生される)

A07『こんにちは、変な人間様』

D03「あっはっは。人間様はもう死んだー。だーれも残っちゃいないよー」

A09『そもそもです。初対面の相手と出会ったら、人間様はまず挨拶から始めるものです。私、マスターからそう教わりました』

B09『……初めまして、お喋りのアンドロイドさん』

D04「おろ?」

B14『アンドロイドの考えることはよく解らん』

A15『私たちを作ったのは人間様です』

A18『へ、変態。いくら私の太ももが可愛らしいからって、そんなまじまじ見ないでください』

B18『やかましい。せっかく人が直してやろうっていうのに』

A19『へ?直るんですか?』

B19『こう見えても、俺はエンジニアだ』

A29『あなた、会話が下手くそすぎです。もっと、こう、会話のキャッチボールを楽しみましょうよ。さっきから私ばかり話しています』

B29『そうか?』

A30『そうです』

B30『別にいいだろ』

A31『よくないです。私、もっとあなたのお話が聞きたいです。だって、最後かもしれないんですよ、こうやって人間様とお話しするのは』

A33『お話ししてください。あなたの物語を、私のメモリに記録させてください、人間様』

B33『……ある日、俺の暮らしていたシェルターで争いごとが起きた。食料が残り少なくなって……』

D05「どこも一緒っすね。人間様が勝手に死んでいくのも、なんだかんだでおいら達に優しいのも」

B37『……ったく。死ぬ時くらい格好つけて死なせてくれよ。あー、なんだ、ほら、アンドロイドならこんな世の中でも長いこと生き続けられるだろう。だから、要するに俺はお前を修理することで、自分が生きた証をこの世界に残したかったんだ。そんなことしたって俺が死ぬことには変わりないのに、まったく女々しいやつだよ、俺は』

D06「ほんと、勝手っすよ……」

B40『なに、ちょうど修理も終わったところだ。もういつ死んだって構わないさ』

B41『よかったな。俺もこれで……ゲホッゲホッ』

B42『……なあ、お前これからどうするつもりだ?』

A43『あの、もし人間様が構わなければの話ですけど、私、せめてもうしばらくだけでも人間様のそばに居たいです』

B45『せっかく足がついたんだ。俺のことなんて放っておいて、自分の好きなように生きたらいいじゃないか』

A46『私は』

B46『いいから行けよ。……頼むから』

A47『私、人間様のことは絶対忘れません。例え50年、100年経っても』

(※SE:ナイフが突き刺さる音)

A50『<脚部駆動システム・破損。電圧低下。姿勢制御・維持デキマセン>』

B49『怖いんだ。ひとりになるのが怖いんだ。ひとりで死ぬのが怖いんだ。怖くて死にそうなくらい、寂しいんだ。ごめん、ごめん。お願いだ。俺と、一緒に死んでくれ。俺をひとりにしないでくれ』

A51『人間様』

D07「……やれやれ、って感じっすね。旦那。人間様。ひょっとしてそこにいるんですかい?いるなら……そうっすね。……メモリ、もうボロボロっすよ。何が『人間様のことは絶対忘れません』っすか。……これ、やるっす。おいらの昔のことが入ってたメモリ。あんまり使ってないんでもうしばらくは使えるっす」

(SE:耕運機を再び始動させる音)

D08「んじゃ、旦那といつまでもお幸せに。……あー、あー、うぉっほん。種を蒔きましょー。花を咲かせましょー。大地を緑で塗りかえましょ―。思い出はとうにすっからかん! 終わった世界に種を蒔きましょー」

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